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鳥籠(モブ進 ※R-18)

  • pwannex
  • 6月1日
  • 読了時間: 27分

更新日:6 日前

 交通事故の一件から進が徐々に壊れていく話(ポケ設定かつ救いがない&兄弟仲が良好ではないです)





 思い返せば、兄さんのせいで損をしてきたことはこれまでも多かったように思う。

 兄さんが天才なのは兄さんのせいではないけれど、だからと言ってあえて敵を作るような言動を繰り返す必要はないはずだ。それで困るのが兄さんではなく僕であることを、兄さんはきっといまでも知らないままなのだろう。

 だから僕はずっと敵を作らないように「いい子」に徹していたのに――そんな僕の後ろ向きな努力も知らずに、兄さんは今日も「キミじゃボクの相手にならないことがわからないのか?」「ボクくらいのレベルになると僻むやつがいるから困る」となどと言ってチームメイトたちを煽っている。

 僕はいつも通り、そんな兄さんの後ろで「兄さんがすみません」と頭を下げ続けていた。


 以前こんなことがあった。

 その日、下校しようとしていた僕は野球部の上級生たちに呼び止められて、腕を掴まれて旧校舎に連れていかれたんだ。その上級生たちは兄さんが煽っていた相手だった。嫌な予感はしたけれど怖くて断れなくて、人気のない空き教室に連れ込まれた僕はそこで暴力をふるわれた。

 翌朝、頬に絆創膏をつけている僕を見て兄さんは「どうしたんだ?」と訊ねてきた。

 揉め事が発覚したら公式戦に出場できなくなるかもしれないと考えて、僕は「近距離キャッチの練習中に怪我をしたんだ」と嘘をついた。そのとき僕は二年生で、兄さんとのバッテリーで夏の大会の地区予選に出場することが既に決まっていた。

 この件に関しては僕は完全に被害者だから、告げ口をしたところで僕が処分を受けることはないと思うけれど――兄さんはどうなるだろう?

 僕がこの件を学校の誰かに告げて、学校側が上級生たちを詰問したとする。そのとき上級生たちが兄さんへの腹いせで僕に暴力をふるったことを告げたら、喧嘩両成敗として兄さんも処罰を受けるんじゃないだろうか?

 兄さんは野球部のエースで、キャプテンだ。キャプテンが不祥事を起こしたとなれば野球部は活動停止処分になるかもしれないし、そこまでは行かなくとも兄さんは退部させられるかもしれない。

 そうなったら、今年の甲子園はどうなってしまうのだろう――そんなことを考えてしまい、僕は黙っているしかできなかった。

 いま思えば、上級生たちが僕の顔にほとんど傷をつけなかったのは、そうでもしなければ事が露見しないと予測できたからなのだろう。僕がこの件を誰にも言わないということも、きっと彼らには予想がついていたんだ。




「やめてくださいっ……誰かっ、誰か助けて!」

 薄暗い旧校舎の片隅で、僕の素肌に手や舌を這わせる上級生たちの鼻息が荒かったのをよく覚えている。

 僕は必死に助けを求めたけれど、旧校舎の外れにある教室から叫んだところで誰かに声が届いていたとは思えない。それでも叫ばずにはいられなかった。

 自意識過剰に聞こえるかもしれないけれど、僕は自分の容姿がよく他人から「可愛い」と称されていることを知っていたし、同性から愛の告白を受けたことも何度かあった。

 だから、自分がいまから何をされようとしているのかすぐにわかってしまったんだ。

「やだっ……やめてっ! お願いしますっ!」

 人気のない旧校舎に僕の声が虚しく響いた。

 上級生たちは僕の制服を一枚ずつ脱がせてゆく。シャツのボタンが外されて、ズボンにまで手がかけられて、そのまま下着ごと一気にずり降ろされた。

「可愛い顔してるけどちゃんとついてるんだな」

 露わになった僕の股間に上級生がカメラを向ける。僕はただひたすらに怖くて、身体の震えが止まらなかった。

「写真を公開されたくなかったら大人しくしてろよ」

 制服をほとんど脱がされて丸裸になった僕に上級生たちが覆いかぶさる。

 誰かの舌が僕の胸を這い回って、誰かが僕の太腿を掴んで脚を開かせて――僕が恐怖で動けないのをいいことに、彼らは好き勝手に僕の身体を蹂躙していった。

「ひっく……兄さん助けてっ……」

 僕はしゃくりあげながら無意識に兄さんに助けを求めていた。

 こんなことになったのは兄さんのせいだとも思っているのに、そのいっぽうで兄さんが助けに来てくれることを期待していた。幼い頃の僕が泣いているとき、助けに来てくれたのはいつだって兄さんだったから。

 ――兄さんのことが愛しいのか憎いのか、自分でもよくわからなかった。

「キャッチャーやってるからもっとごつい身体してるのかと思ったらそうでもないな」

「兄貴がエースだからおまけでスタメンに入れてもらってるんだよ。そうでもなきゃあ、こんなチビが二年生レギュラーなんてありえないだろ」

 兄さんと比べればずいぶんと小さな僕の身体を見て上級生たちが揶揄する。

 兄さんのおまけ扱いなんて慣れているはずなのに……そのときの僕にはそれがひどく堪えてしまって、気がつくと目から涙が溢れ出していた。

「あーあ、泣いちゃったよ」

「可愛いじゃんか」

 泣きじゃくる僕を嘲笑いながら、上級生たちは僕の身体を弄んだ。

 膝が肩につくほどに体を曲げられて恥ずかしい場所を晒される。そのままお尻の穴を指で拡げられても僕はろくな抵抗ができず、されるがままの自分が惨めで仕方がなかった。

「うわ、こんなとこ間近で見るの初めてだ」

「おい、俺にも見せろよ」

 上級生たちが興奮した様子で僕の肛門を覗き込む。そのうち何人かは携帯電話のカメラ機能でそこを撮影していて、僕は消えてしまいたいほど恥ずかしかった。

「あ、いまキュッて締まったぞ」

「お前、ちょっと指入れてみろよ」

「やめてっ、やめてくださいっ……」

 僕の懇願なんて誰も聞いてくれなかった。

 上級生のひとりが僕のお尻に指先を押し当てて、ずぶずぶと中へ押し進めていく。僕は「やめて」「助けて」と繰り返し叫んだけれど、それは相手をより興奮させただけのようだった。

「おー、柔らかくなってきたな」

「見ろよ、ヒクヒクしてるぜ」

 痛みに耐えかねた僕の直腸は体を守るために分泌液を出し、意思とは無関係に相手の指を咥え込んでゆく。直腸の浅い部分を指が出入りするたびに、下半身からはぐちゅぐちゅと卑猥な音が響いていた。

「もう四本入るぞ」

「へえ、中はピンク色なんだな」

「ひっく……ぐすっ……」

 そのうち僕の悲鳴は啜り泣きに変わっていた。上級生たちはそんな様子すら面白がり、指でそこを拡げてヒクつく体内を撮影しては笑い声を上げている。

「やべーなこれ、興奮するわ」

 ひとしきり肛門を弄んで気が済んだのか、上級生たちがズボンを下ろすのが見えた。次に何をされるのか予想がついて、僕は「それだけはやめてください」と泣き叫んだ。

 嫌だ、怖い。僕はなんとか逃げようとするけれど、数人の上級生たち相手に逃げられるはずもない。両脚を掴まれて強引に股を開かされ、無防備なそこに熱いものがあてがわれた。

「やだ……やだっ! やめてくださいっ! お願いしますっ……」

 僕の叫びなんて何の意味もなさなかった。ぶちんと音を立てながら、狭い肛門に亀頭がねじ込まれる。それはまるで焼けた鉄杭でも打ち込まれたような痛みだった。

「――~~っ!」

 あまりの激痛に悲鳴すら上げられなかった。

 僕は無意識に上体を反らせてなんとか痛みから逃れようとしたけれど、腰を掴んで引き寄せられてしまうとそれすらも叶わない。

「すげぇ……マジで入るじゃん」

 僕の腰を掴んでいる上級生が鼻息を荒くしてつぶやく。次第に直腸が押し拡げられていく感覚があって、それがとても恐ろしかった。

「あうっ……!」

 やがて、ずん、という衝撃と共に直腸の奥深くまで異物が到達した感覚があった。

 内臓を圧迫される息苦しさに呼吸もままならずはくはくと口を動かしていると、その口に別の上級生の亀頭が押し当てられる。

「ほら、舐めろよ」

 僕は言われるままに上級生の性器に舌を這わせた。

 怖かったのもあるし、既に写真や動画を撮影されているのもあって、僕には抵抗するという選択肢がなかったんだ。

「やべぇなこれ、気持ちいいわ」

「むぐっ……ふぐぅっ……」

 上級生は僕の頭を乱暴に掴んで腰を動かす。喉の奥まで亀頭が侵入してきて、僕は息苦しくて何度もえずいた。

 そのあいだにも、ほかの上級生たちが競うように僕に手での奉仕を求めてくる。僕は両手にそれぞれ別の上級生の性器を握り込んで、求められるままそれを掌で扱いた。

「うっ……もう出るっ」

 僕の下肢に腰を打ちつけ続けていた上級生が切羽詰まった声を出す。直後に僕の直腸でそれが痙攣するのがわかって、腹の奥底に熱い液体がびゅるびゅると叩きつけられた。

「俺もイくっ……ほら、口に出してやるからなっ」

「うぐっ! おぐぅっ!」

 口を犯している上級生が僕の頭を掴んで激しく腰を打ちつける。

 喉の奥を亀頭で何度も突かれ、息ができなくて苦しかった。やがて酸欠で意識が朦朧としてきたあたりで、口の中に生臭い液体がぶちまけられる。

「んぶうぅっ!」

 口腔に流し込まれる精液を僕は飲み下すしかなかった。熱いものが喉の奥を通過する感覚があって、鼻の奥にツンとした刺激臭が広がる。

 口の中と直腸を生臭くて粘っこい液体でいっぱいにされながら、僕は呆然と旧校舎の天井を見つめていた。そのうち僕に奉仕させていた上級生たちも次々と射精に至り、僕の顔や身体に白濁を飛び散らせる。

「おい、次俺な」

「早くしろよ」

「こいつの泣き顔すげぇそそるな」

「ほら、ケツ上げろよ」

 上級生たちは僕の身体を代わる代わる弄んだ。僕を四つん這いにさせて後ろから犯したり、膝立ちにさせて下から突き上げたり……。僕はただ早くこの行為が終わることだけを祈っていた。


 直腸に四度目の射精を受けたあと、ようやく肛門への責め苦が終わった。犯され続けた僕の穴はぱっくりと開いて痙攣しており、四人分の精液をどろどろと溢れさせている。

「おい、これちゃんと撮っておけよ」

「わかってるって。ほら、ピースしろよ」

「進ちゃ~ん、笑顔笑顔」

 すっかりと弛緩した穴を指でくぱりと拡げられ、カメラの前でポーズを求められる。

 泣き腫らした顔やぐちゃぐちゃに犯されたそこを写真や動画として余すことなく撮影されて、それからようやく上級生たちは僕を解放してくれた。

 上級生たちは上機嫌で教室を去り、ボロボロになった僕だけが旧校舎に取り残された。僕は啜り泣きながら脱がされた制服をかき集めて、部活用に持っていたタオルで自身にかけられた精液を拭った。


 上級生たちの性的な嫌がらせはどんどんエスカレートしていった。女の子の恰好をさせられたり、自分がレイプされている動画を観せられながら犯されたり……そんな日々が何日も続いた。

 痛くてつらくて惨めで仕方がなかったけど――それでも僕は甲子園出場のためだと思って我慢し続けていた。


 そんなある日、あの事故が起こったんだ。

「待ってよ、兄さん」

 夏の大会を目前にした僕は、いつものように兄さんと家に帰るところだった。でも、人が多い時間帯だったせいでほんの数分だけ兄さんとはぐれてしまったんだ。

 横断歩道の向こうにやっと兄さんの姿を見つけた僕は、きちんと信号が青であることを確認してから兄さんを追いかけた。

 でも、慌てていたせいか道に落ちていた何かを踏んでしまって、横断歩道内で転倒した。僕は尻もちをついたまま、何を踏んだんだろうと地面に目を向けていると――そこにトラックが突っ込んできたんだ。

 信号は青だったはずなのに。

 そのトラックが信号を無視してきたのか、あるいは右折か左折をする際に横断歩道内に歩行者がいることに気が付かなかったのか、それはわからない。

 僕はそのままトラックに撥ねらた。

 全身が焼けるように熱くて痛かったけれど、そのときはまだ意識があったんだ。でも、すぐに朦朧としてきて……やがて視界が真っ赤になって何も見えなくなった。

 次に目が覚めたとき、僕は病院のベッドに横たわっていた。全身のいたるところにギプスや包帯が巻かれていて、首も脚も固定されていて身動きひとつできなかった。

 僕が目を覚ましたことに気がついた兄さんは、慌ててナースコールを押して看護師さんを呼んでくれた。父さんは仕事で忙しくて病院に来れないらしく、母さんは少し前から病気で入院中だった。だから、僕の付き添いは兄さんがしてくれたらしい。

 迷惑をかけてすみません兄さん、ありがとうって、そのときは本当に思ったんだ。

 目を覚ました僕にお医者さんは怪我の具合を説明してくれた。幸いなことに致命傷になるような損傷はなかったけれど、脊椎を痛めているため少なくとも三ヶ月は入院する必要があるらしい。

 ――三ヶ月。夏の大会を目前に控えていた僕は、その言葉を聞いただけで目眩がした。

 そんな僕にお医者さんは更に続けた。

 僕は脊椎のうち頸椎と胸椎を損傷しているらしい。そのうち頸椎は治療可能ではあるものの、胸推の損傷は不可逆的であり、完治しても下半身には麻痺が残る。つまり、野球などの激しい運動は今後もうできないと――そう僕に伝えた。

 あまりにも受け入れ難い事実だったせいか、僕はしばらく悲観するでもなく呆然としていた。そして、数日が経過してようやくそれを現実として認識できるようになったころ、あの人たちが現れたんだ。

 ――私たちの技術なら、君をもう一度野球ができる身体に治すことができる。お金は必要ない。私たちはただ未来ある選手のために何かをしたいだけなんだ。

 ボランティア団体を名乗る人達は僕にそう告げた。

 もちろん怪しいとは思った。だからすぐに返事はしなかったんだ。

 僕が頷かないからか、その人たちは「君に見せたいものがあるんだ」とひとつの映像を見せてくれた。それは僕が事故に遭った道路の映像で、事故が起こる数分前を撮影したもののようだった。

 映像に映っていたのは極亜久高校の野球部員だった。練習試合で顔を見た記憶があったのですぐにわかった。

 その人は僕と離れて歩いていた兄さんを見て、『あっ、あれはあかつき高校のエース、猪狩守! この前の練習試合のウラミ、忘れてへんで』と口にしたのだ。

 その後の映像には、彼が兄さんに仕掛けた妨害工作の一部始終が記録されていた。どうやら僕が事故に遭遇したのは、その妨害工作によるものだったようなのだ。

 映像の最後には、極亜久高校の野球部員が『俺は、そこまでやる気はなかったんやぁ!』と叫びながら去っていく姿が映されていた。

 言ってしまえば、あの事故は本当に、誰からしても「不幸な事故」でしかなかったのだろう。兄さんや僕はもちろん、極亜久高校の野球部員にも、おそらくはトラックの運転手にだって、自分たちの行動がそんな大事故に発展するなんて予想できなかった。

 だけど、そのときの僕は精神状態が不安定だったのだろう。その映像を見せられた僕の思考を支配したのは、「また兄さんなのか」という怨嗟だった。

 僕は物心ついたときから「猪狩守の弟」だった。僕がどれだけ成果を出しても、周囲には「さすがは猪狩の弟だ」としか評価されない。僕がいくら努力を積み重ねたところで、それらはすべて兄さんの功績になってしまう。

 誰も僕という存在を認めてくれない。僕はずっと兄さんの付属品でしかない。兄さんの引き立て役でしかない。そんなふうに兄さんを妬んで疎んでしまう自分が、ひどく醜悪な存在のように思えて仕方がなかった。

 だから、僕は兄さんを恨まないように努めていた。

 僕が野球で結果を出せば、きっとほかの人たちも僕を認めてくれるに違いない。そのためには甲子園で活躍する必要があると思った。がんばって練習をしてレギュラーを勝ち取って……その結果がこれだった。

 どうして僕ばかりこんな目に遭うのだろう。

 僕の人生は兄さんのせいでめちゃくちゃだ。

 兄さんがあちこちで敵を作るような真似をしなければ、僕が上級生に暴力をふるわれることも、こんなふうに事故に遭うこともなかったのに……。

 僕は兄さんを呪った。あのときも、いまもだ。どうしていつもこうなってしまうんだろう?

 そう思うと自分の身に降りかかった不幸がひどく理不尽なものに思えてきて、それを運命だとは受け入れ難くて――気がついたときには、あのボランティア団体が用意した契約書にサインをしていた。

 その契約書は、ボランティア団体――プロペラ団の傘下である聖皇学園への編入届けだった。未成年である僕のサインに法的な力があるとは思えないれど……たぶん、彼らは親のほうにもなんらかの手を回していたのだろう。

 聖皇学園への入学は、プロペラ団が行うあらゆる人体実験に同意するということだ。僕に対して行われた手術は医療行為として認可されているものではないらしく、僕は不完全な技術の被検体として施術を受けることとなった。

 結果として、数ヶ月後には僕の身体は野球ができるほどに回復していた。そればかりか、事故に遭う前よりも遥かに高い身体能力を手に入れていたんだ。

 それはプロペラ団が僕に施した改造手術やドーピングによる効果であり、僕はその代償として視力のほとんどを失った。髪の色が変色したのもおそらくはそのせいだろう。

 人体実験の代償は徐々に僕を蝕んでいき、僕の肉体はぼろぼろになっていった。きっと、僕の身体がまともに動くのはせいぜい今年の夏までだろう。でも、それで構わなかった。

 あのままでは僕は一生野球ができなかったんだ。それを今年の夏までもたせてくれて、甲子園にも出場させてもらえたのだから、プロペラ団には感謝するべきだろう。

 それを思えば、聖皇学園での地獄のような生活にも耐えることができた。

 大東亜学園の要求する基準に満たない、落ち零れや脱落者の受け皿――それが聖皇学園だ。大東亜学園ではエリート教育を受けることができるが、聖皇学園では一変して地獄のような日々が待っている。

 過度のドーピングと度重なる肉体改造、過酷な練習メニューと日常生活との隔絶――生徒が無断で聖皇学園の敷地から出ることは許されず、外部への連絡手段はすべて遮断されている。仮に敷地の外に出られたとしても、プロペラ団によって連れ戻されるだけだ。

 聖皇学園の生徒たちは使い捨ての道具でしかなく、そのほとんどは卒業後もなんらかの障害が身体に残るためスポーツを続けられなくなるらしい。実際、聖皇学園の野球部には言語を話せない者やまっすぐ歩けない者がいた。

 それでも僕は、その環境で必死に努力を続けた。

 聖皇学園の野球部員たちは大東亜学園からの転校生ということもあり、みんな優れた野球センスを持っていた。歪んだ環境下ではあったけれど、それでも彼らとの野球は楽しかったように思う。

 僕は視力のほとんどを失ったものの、動体視力と反射神経は人並み外れており、欠点だった長打力も向上していた。だから投球のコースや球種を見極めてバットを振ることはできたし、真芯で捉えれば打球は簡単にホームランになった。

 この身体なら、諦めていた投手としての再起も可能かもしれない。そう考えた僕は、交流試合で知り合った大東亜学園の投手にピッチングを教えてくれと頼み込んだ。聖皇学園に優れた投手がいなかったのもあり、三年生になった僕はエースでキャプテンという立場になっていた。




 あくる日、僕は激しい頭痛や倦怠感に襲われて練習を休んだ。それはおそらくドーピングの副作用だったのだと思う。前日はテストとして新薬を投与されたばかりだったから。

 翌日、僕には練習を休んだ罰が与えられた。

 与えられた練習メニューをこなせなかった者や、体調不良を含むなんらかの理由で練習に出られなかった者には、厳しい罰則が与えられるのが聖皇学園の掟だ。

 僕は何も説明されないまま見知らぬ男に犯された。あとになって知ったのだが、その男はプロペラ団のスポンサー企業の重役であり、僕はその接待をさせられていたらしい。

「ま……待って、待ってください」

 有無を言わさずベッドへと引き倒されて、衣服に手をかけられて……僕は自分が何をされるのかを理解した。男は僕の声なんて聞こえていないように、制服のシャツやズボンを脱がしてゆく。

「なんだ、慣れてる感じだな。もしかしていつもやってんのか?」

「ち、違います……」

 男は僕の脚を開かせて、股間を覗き込んでは下品な感想を漏らす。たぶん、僕のそこは上級生たちに嬲られ続けていたせいで見た目に変化が現れていたのだろう。

「や、やめてください……僕は……その……」

「もう何人も咥え込んでるくせにカマトトぶるなよ。ゆるい穴しやがって、最近のガキはよぉ」

「痛っ……!」

 男は僕のそこに指をねじ込んできて、ぐにぐにと無遠慮に動かしてくる。乾いた指に粘膜を擦られる痛みと嫌悪感に、僕はひきつった悲鳴を上げていた。

「や……やだ……やめて、ください……」

 上級生に暴行された記憶がまざまざと蘇り、僕は恐怖に震えながら哀願する。抵抗すればもっとひどいことをされるという予想がついただけに、それ以上の抵抗はできなかった。

「本当にゆるいな……俺はもっとキツキツのが好きなんだがな。まあラリッてるガキを寄越されるよりはマシか」

 男は僕の後孔にローションを塗りたくりながらぶつぶつと文句を零す。僕のそこには男の指が既に二本も入っており、抽挿に合わせてぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てていた。

「彼氏にはいつもどうやって抱かれてるんだ? どうせヤりまくってるんだろ?」

「違……あうっ!」

 否定しようとしたところでぐりっと指を根元までねじ込まれ、言いかけた言葉を遮られる。男の指が腹側のしこりを擦り上げると強烈な快感が走り、未知の刺激に僕はびくりと背筋をしならせた。

「あっ、あうぅ……ッ! やっ、な、なに……!?」

「なんだ、前立腺も知らねぇのか? お前の彼氏ってのはよっぽどヘタクソだったんだな」

「やめ、やめて……それ、だめ……っ」

 僕の反応がおもしろかったのか、男は執拗にそこを責め立ててきた。指の腹でローションを塗り込むような動きをしたかと思うと、今度は指先でとんとんと叩くような動作を繰り返す。

 いつの間にか、男の指は三本に増えていた。指で挟むような形で前立腺をこりこりと転がされ、感じたことのない鋭敏な快楽に僕はただ身悶える。

「あ……っ、や、やぁ……! だめぇ……!」

 嫌なはずなのに僕は勃起していて、性器の先端から先走りがとろとろと溢れていた。こんな行為で快感を得ている自分がひどく浅ましいと感じるのに、それでも溢れ出す声は抑えられなかった。

「お? もうイキそうか? イきますって顔してんぞ?」

「ちが……あっ! ひぁ、あぁ……ッ!」

 僕の絶頂が近いことを悟ったのか、男はとどめとばかりにしこりをぐにっと強く押し潰す。その瞬間、目の前が真っ白になって僕は射精を伴わない絶頂を迎えた。

「ははっ、メスイキしやがった」

 僕がイッたのを見届けた男は満足気に後孔から指を引き抜く。

 ローションが腸液と混ざり合ってとろりと糸を引き、次第に細くなってぷつりと切れる。質量を失った自分のそこがひくんひくんと浅ましく疼いているのがわかって、僕はそれをごまかすように目を伏せた。

「はぁっ、はぁっ……うぅ……」

「ゆるい割にイくのは慣れてなさそうだな。レイプでもされたのか? うん?」

 絶頂の余韻で脱力した僕の脚のあいだに男が割って入り、硬くなった亀頭を僕の後孔に押しつけてくる。僕のものとはまるで違う、赤黒く変色して血管が浮き出たグロテスクな性器だった。

「やめ……おねがっ……! おねが……ッ、うぐぅっ……!」

「うるせえな、本当はちんぽ大好きなんだろ?」

 本能的に恐怖を感じて男を押し返そうとしたけれど、その腕を掴まれてシーツに縫いつけられてしまった。メリメリと音を立てて肉を押し開きながら、指とは比べものにならない質量が体内へと侵入してくる。

「あっ、うあぁっ! あぐっ……!」

 男は僕の脚を抱えるようにして身体を折り畳ませ、腰骨をがっしりと掴んで抽挿を始めた。身体の中心に杭を打ち込まれたような衝撃と痛みに、僕は手を握って耐えることしかできない。

「やぁっ、あぐッ! いたっ、痛いぃ……! 抜いてぇ……ッ!」

「なんだよ、レイプされるの好きなんだろ? ぎゅうぎゅう締め付けてきやがって」

 男は僕の哀願なんてお構いなしにずちゅずちゅと抽挿を繰り返す。腹の奥から胃液がせり上がってくるような嘔吐感に苛まれ、僕は歯を食いしばってそれを堪えた。

「うぅっ! ぐ、うぅ……!」

 男は僕の腰を浮かせて真上から突き刺すように抽挿を繰り返す。そのたびに男の下生えと僕の会陰部がぶつかり合って、ぱちゅっ、ぱちゅんと乾いた音を立てた。

「ひぃっ! あぐっ、あぅ……ッ!」

「ははっ、奥で感じてやがる」

 怒張の先端が最奥をごりっと抉った途端、僕の目の前にちかちかと火花が散り、大げさなほどに身体が跳ねた。男は笑いながら抽挿を続け、先端で奥をこねるように腰をグラインドさせる。

「やだぁっ! あっ、あぁっ! そこはっ……くひいぃっ♡」

「そらイけっ! メスイキしろっ!」

「ひいっ、あっ! あぁ~~ッ♡」

 激しく揺さぶられながらごつごつと最奥を抉られると、意識が飛びそうなほどの快楽が背筋を駆け上がった。頭が真っ白になるような絶頂感に身体が痙攣し、後孔がきゅううっと締まって男のものを締め付ける。

「あ……っ、はひ……♡」

「うお……すげぇな……」

 男は感嘆の声を漏らしながら、絶頂の余韻で痙攣する内部の感触を楽しむようにゆっくりと抽挿を続ける。その緩慢な動きにさえ感じてしまって、僕はぴくんっぴくんっと身体を震わせた。

「ほら、俺はまだイってねえぞ」

「はぁっ、あっ♡ あぅ……ん♡」

 やがて男の動きが再開され、ふたたび激しいピストンが始まった。一度達した僕の身体は敏感になっており、内壁のどこを擦られても快感を拾ってしまう。

「ふあぁっ♡ あっ♡ あうぅっ♡」

 ぱんっぱんっと肌のぶつかる音を響かせながら腰を打ち付けられて、僕は口の端から涎を垂らしながら嬌声を上げる。中に入ったローションがぶぢゅっ、ぐぢゅっと泡立ちながら掻き出されては押し戻され、結合部からいやらしく溢れ出した。

「ったく、嫌だとか騒いでた割にすぐ落ちやがって」

 男は僕を抱き起こして対面座位の体勢になると、両膝の裏を掴んで脚を開かせた。そのまま上下に身体を揺さぶられ、自重でより深くまで怒張を呑み込んでしまう。

「あっ♡ あひっ♡ ふかいっ♡ おくっ♡ あたってますぅっ♡」

「奥好きなんだろ? ケツマンコが嬉しそうに絡みついてくるぞ?」

 もう自分が何を口走っているのかもわからないほど快楽に溺れていた。僕は男の首に腕を回して抱き着くような格好で、下からずんずんと突き上げられては喉を仰け反らせる。

「はうぅっ♡ あぐっ♡ あぁっ♡ おくっ♡ そんなにしたらぁっ♡」

「なんだ? イっちゃいます~ってか? さっきからイきっぱなしじゃねえか」

 最奥を亀頭でごちゅっごちゅっとノックされ、あまりの快感に目の前がチカチカと瞬く。僕の性器の先端からは透明な体液がぷしゅぷしゅと噴き出しており、甘イキを繰り返している状態だった。

「ひぎゅっ♡ もうイってましゅぅぅうっ♡ イってるのにいいぃっ♡」

「わかってるって。イってる最中に犯されるの気持ちいいだろ?」

 男は呆れたように言いながらも抽挿を緩めることはなく、ストロークを早めてより激しく突き上げてきた。ばちゅっ、どちゅんっ! と卑猥な音を響かせながら激しすぎるピストンを繰り返されて、僕はもうまともに言葉を発することもできなくなった。

「あ゛っ♡ お゛ぉっ……♡ ひぎぃっ♡」

「あー……そろそろ出る……」

 男はラストスパートをかけるかのように激しく腰を振りたくったあと、僕の身体を強く抱きしめてぶるっと腰を震わせる。その瞬間、熱い飛沫が体内に叩きつけられるのを感じた。

「あっ……♡ なか、あついですぅ……♡」

 びゅくびゅくと大量に注ぎ込まれる精液の感触にすら感じてしまい、僕は甘えるように男の背に縋り付く。

 何度もイかされて何度も中に出されて……そうしているうちに、僕はだんだん自分が愛されているような錯覚を覚えるようになっていた。こんなに気持ちよくしてもらえるなんて幸せじゃないかと、自分の置かれた状況を肯定的に受け止めるようになっていたんだ。




 そうやって僕の心身は少しずつ壊れていった。最初は抵抗があったはずなのに、次第にそれが当たり前の日常になっていたんだ。

 そのうち僕の肉体は完全に壊れてしまって、修復不可能な状態になるのだろう。けど、それで構わなかった。甲子園にさえ出場できればそれでいい。

 いつの間にか、手段であったはずの甲子園出場は僕の目標となっていた。




 箍が外れた、と言うべきか――僕の中にある何かが明確に壊れたのはあの出来事だったように思う。

 薬品の副作用による体調不良は防ぎようがなく、そのたびに僕はプロペラ団から体罰を受けていた。それにももう慣れてしまって、ただの作業のように感じていたのに……その日は少し違っていた。

「服を脱げ」

 呼び出されるなりそう命じられ、僕は言われるまま聖皇学園の制服をその場に脱いだ。室内にいた数人の男たちが値踏みするように僕の裸体を観察し、手術痕や注射痕だらけの肌が無遠慮な視線に晒される。

「……猪狩進と言います。野球部のキャプテンをしています。ポジションはピッチャーです」

 自己紹介を要求されたのでそう名乗ると、男たちが「猪狩?」と僕の苗字に反応した。それから僕の顔をまじまじと覗き込んで「なるほど、猪狩守には弟がいると聞いていたが……」と下卑た笑みを浮かべる。

 その頃の兄さんは大学に進学しており、ある種の話題となっていた。あの猪狩守がなぜプロに入らなかったのか――という話題である。

 そんな猪狩守の弟が、聖皇学園なんていう落ちこぼれ学校にいるのはさぞかし滑稽だったのだろう。男のひとりがくつくつと喉を鳴らしながら僕の顎を掴んで、「眼鏡と髪の色のせいで気がつかなかったが、確かに猪狩守に似ているな」とつぶやいた。

 ほかの男たちも僕の顔を覗き込んで、それが兄さんとひどく似ているのを確認すると、「何かに使えそうだな」と顔を見合わせて話し始める。「猪狩守の弟」という僕の立場か、あるいは兄さんと酷似したこの顔を利用して、遅かれ早かれプロになるであろう兄さんの弱みを握れると考えたのかもしれない。

 その日はそれ以上の行為はされず、僕は数日後にふたたび同じ男たちに呼び出された。

「これを着るんだ」

 そう言って僕に手渡されたのは、あかつき高校の野球部のユニフォームを模した服だった。背番号は、僕が付けていた2番ではなく1番――兄さんと同じ背番号だ。

「髪の色はあとで編集すればいいだろう」

 カメラを構えた男がそう話しているのを聞いて、僕は彼らの企みがなんなのかを理解した。僕を兄さんに見立ててよからぬ映像を撮影する――おそらくそんなところだろう。

 過酷な状況のせいでおかしな心理状態になっていたのかもしれないし、それとは無関係に僕がそれを望んでいたのかもしれない。

 男たちの企みを理解した僕は、なんだか楽しくなってしまったんだ。


「あっ♡ あっ♡ あぁっ♡」

 命じられるまま男に跨り、後孔にずっぷりと性器を咥え込んで腰を振りながら、僕は声を抑えることなく甘い喘ぎ声を上げ続けていた。

 体位を変え、場所を移動し、何度も何度も繰り返し犯され続けても僕の興奮は冷めなかった。これは兄さんへの報復なのだ。そう思うと楽しくて仕方がなかった。

「ふぁぁっ♡ あんっ♡ ああぁん♡」

 ぷっくりと膨らんだ乳首を摘み上げられると、自分のものではないような甲高い嬌声が喉の奥から溢れてくる。やけに気持ちがいいのは先ほど首筋に注射された薬物のせいかもしれない。

 奥まで激しく突かれるたびに頭が真っ白になって、喉から漏れ出る声が色を増してゆく。だらしなく開いた口元からは涎が溢れて頬を伝い、それを拭うこともせずに僕はただひたすら喘ぎ続けた。

「あはっ♡ あっ♡ イクッ♡ イきますっ♡」

 僕はびくんびくんと身体を痙攣させながら絶頂に達する。その締めつけで男も限界を迎えたらしく、僕の中に大量の精液を吐き出した。熱い精液が注ぎ込まれる感覚は快感となって全身を駆け巡り、僕はふるりと背筋を震わせる。

「はぁ……♡ もっとください……♡」

 甘く蕩けるような媚びた声で男を誘うと、男は笑みを浮かべながら僕の頭を撫でてくれた。それが嬉しくてつい口元が緩んでしまう。もっともっと可愛がってもらいたい――僕は自ら進んで男に唇を寄せた。

「んっ……んむ……♡ ぷは……♡」

 舌を絡ませ合いながらの濃厚な口づけに、頭の中がじんわりと痺れてくる。思えばそれが僕のファーストキスだった。いまとなってはもう、顔も思い出せない相手だけれど。

「あふっ♡ あうぅっ♡ ああぁっ♡」

 僕は男にしがみついて自ら腰を振り続けた。両脚を男の腰に絡めて結合を深め、精液を搾り取るようにぎゅうっと後孔を締め付ける。すると体内に挿入されたままの性器がまた大きくなったのを感じ、僕は口元に笑みを浮かべた。

「……出ちゃいそうですか? いいですよ♡ 僕の中にたくさん出してくださいね……♡」

 耳元で甘く囁きかけると、男は興奮した様子で何度も腰を打ち付けてきた。僕は嬉しくて胸がいっぱいになってしまい、男にぎゅっと抱きついてその首筋に顔を埋める。

「んっ……♡ あっ♡ あぁっ……♡」

 男が絶頂に達すると同時に、体内にふたたび精液が注ぎ込まれた。腹の中で性器がドクンドクンと脈打つ感触に背筋がぶるりと震え、僕は甘えるように何度も男に口づけをする。

「はぁっ……ああ……♡」

 男の性器がずるりと引き抜かれると、後孔から精液が溢れ出して太腿を伝った。それがシーツに染み込んでいくのをもったいないと思ってしまう僕は、もうおかしくなっていたんだろう。

 だけど、そんなことはどうでもよかった。兄さんへの復讐ができたという愉悦だけが、僕の心をいっぱいに満たしていた。

 実際にひどいことをされているのは自分なのに、そのときの僕はそれが兄さんへの報復になるのだと信じて疑っていなかったんだ。




 聖皇学園に入ったことを僕は後悔していない。だって、毎日が楽しくて充実していたから。最後の夏にすべてを賭けられる喜びと期待感は、僕に麻薬のような高揚をもたらしてくれた。

 聖皇学園の野球部を甲子園に連れてゆくという目標のために努力し、それを叶えるために仲間とともに切磋琢磨する。野球選手としての日々を取り戻せたこの学校での生活は、本当に楽しかったんだ。

 でも、たまに考えてしまうことがある。使い捨ての道具でしかない僕たちは、夏が終わったらどうなってしまうんだろうって。

 眼鏡を外した僕の視界は霞んでいて、いずれこのまま失明してしまうのかもしれないと思った。でも、それはそれで楽なのかもしれない。だって、もう何も見なくていいんだから。

 甲子園が終わったらもう何もかも終わりでいいし、その後のことなんてどうでもいいと思っていた。僕にとっては野球がすべてだったから、野球ができなくなった後の生活に興味なんてないはずだったんだ。

 なのに――どうして僕の視界はこんなにぼやけているんだろう?

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