神進 ※R-18
- pwannex
- 5月25日
- 読了時間: 5分
更新日:8月13日
進くんのマンションに招かれるのはこれで何度目になるだろう。
最初はほかのチームメイトも含めて数人でお邪魔したのだが、最近は自分と進くんと二人きりで食事をすることが多くなった。
進くんの料理はおいしいだけでなく相手の好みに合わせており、なおかつ栄養価やカロリーを調整するなどの細やかな気遣いも見受けられた。
いつかチームメイトの誰かが進くんに対して「嫁に欲しい」などと言っていたが、あれはあながち冗談ではないのかもしれない。
「ありがとう、おいしかったよ」
食事を終え、箸を置くと進くんは「お粗末さまでした」と笑顔で応えてくれた。
「あ、食器は僕が片付けておきますからそのままでいいですよ」
空になった食器を手にして立ち上がると、進くんは少し慌てた様子でそれを止めに入る。
「これくらいやらせてくれないか? なんでも君に任せきりってのは申し訳なくてね」
「別に気にしなくていいのに……でも、神童さんがそういうならお願いします」
遠慮がちにそう返す進くんに軽く微笑みかけ、テーブルの上にある食器をシンクへと運ぶ。
食器の片付けを終えると進くんがコーヒーを淹れてくれたので、それを口にして二人で一息をついた。
カップを両手で持ってふうふうと息を吹きかける進くんの姿は小動物のようで愛らしい。こういった仕種が女性ファンの心を射止めるのだろうな、などと僕はぼんやり考えていた。
「今夜はありがとう。じゃあ、また今度」
そう言って玄関へ向かおうとしたところ、進くんに手を掴まれて僕は足を止める。
「あの、神童さん……」
「なんだい?」
「あ……あの……えっと……」
進くんはなにかを言おうとしているようだが、その続きは一向に出てこない。
目線の下にあるつむじを眺めながら言葉を待っていると、やがて意を決したように進くんが顔を上げた。
「今日は泊まっていってくださいませんか……?」
進くんはふっくらとした頬を紅潮させながら遠慮がちに提案する。僕の手を握っている小さな手は震えていて、肌を通して進くんの緊張がありありと伝わってきた。
これはつまり「そういうこと」だと思っていいのだろう。
僕はそう判断したものの、二つ返事で承諾できるほど鈍感な人間でもなかった。
進くんは僕を通して兄を見ている――それに気がついたのは、進くんが一軍に上がって数週間を一緒に過ごしてからのことだ。
進くんは何かにつけては「僕より兄のほうが」と兄を立てる発言をするが、その表情にはいつだって陰りが見えた。
そこから少しずつ彼の中に垣間見える兄への劣等感や嫉妬に気がつき、僕はいつしかそれが気になって仕方がなくなっていたのだ。
進くんは僕に対して好意を抱いている。それは間違いないだろう。しかし、それはあくまで兄を倒すための道具としてだ。
こうして僕を食事に誘ってくれるのは餌付けのようなものなのだろう――そう思いつつも付き合っていたのは、進くんへの純粋な好意と同情心からだった。
兄を通してしか自分を見てもらえないうちに、自分も兄を通してしか他人を見られなくなってしまった子。
自分の中にある空虚を埋めるために他人を利用しようとしているのに、それでも悪人に徹しきれない未熟な少年。
そんな進くんがあまりにも憐れで可愛くて――それはひどく高慢な感情だった。
助けてあげたいだとか、守ってあげたいだとか。自分の感情はそんな言葉でも表現できるものではあるが、それは自分の高慢さを綺麗な言葉でカモフラージュしただけに過ぎないのだろう。
きっと、自分が進くんに対して抱いている愛情は、彼に「兄がいなければだめな弟」であることを望んでいた彼の兄と変わらない。そう思うと、進くんが僕を兄の代用品として選んだのは慧眼であると言えた。
だから、彼が「そう」したいのなら好きにさせてやろうと思ったのだ。
「進くん」
僕は彼の名を呼び、そっと肩に手を置くとそのまま自分の胸へと抱き寄せた。
「神童さん……?」
進くんは僕の腕の中で戸惑ったように身動ぎする。
僕の反応が想定外で戸惑っているのか、それともそう見えるように演技しているのか。
進くんの頬に手を添えてそっと上を向かせると、僕の意図を察したのか大きな目がゆっくりと閉じた。
「……ッふ……」
充分すぎるほど慣らしたそこにゆっくりと押し入ると、進くんの唇から押し殺したような吐息が漏れる。本来は受け入れるための器官でないそこは、強引に拡げられる痛苦にみちみちと悲鳴を上げていた。
「痛むかい?」
「平気です……ちょっと苦しいけど……」
進くんはそう言って恥ずかしそうに口元を手の甲で覆いながら、浅く呼吸をして異物感をやり過ごしている。
「力を抜いてごらん」
汗で額に張り付いた前髪を掻き分け、露になったそこにひとつ唇を落とす。すると、進くんの肩から僅かに力が抜けるのがわかった。
進くんが「初めて」らしいことに安堵しつつ、そうであるなら「打倒・猪狩守」のためにここまでやるものだろうかという疑念も湧いてくる。
「好きです……神童さんのことが、ずっと好きでした……」
進くんは緩慢な動作で腕を僕の背中へと回した。
そんな言葉はきっと嘘だろう。しかし、今はそれを指摘するのは野暮というものだ。僕は「嬉しいよ」と返してゆっくりと腰を動かした。
「……っあ……ん……」
やがて痛みも和らいできたのだろう。進くんの声に甘さが混じり始めたことに安堵し、さらに奥へと押し入る。隘路を押し広げながら腰を揺すると、進くんはびくびくと身体を震わせた。
「……っは、あ……神童さん……もう、僕……っ」
限界が近いのか、進くんの呼吸が浅くなり中がきつく締めつけてくる。
「いいよ、我慢しないで」
そう返すと進くんはこくこくと頷き、背中に回した腕にぎゅっと力を込めた。
それに誘われるようにして奥を突き上げると、進くんの中がきつく収縮する。ほどなくして腹部に温かい飛沫がかかるのを感じ、自身も彼の中に熱を放った。
「神童さん、僕……」
脱力した進くんの体を慰撫するように撫でていると、進くんが小さな声で僕に呼びかけてきた。
「なんだい?」
そう問い返しても、彼は言葉の続きをなかなか口にしない。そのうちに上気した頬には涙の筋が伝い、長い睫毛を濡らしてぽろぽろと大粒の涙を溢れさせた。
「ごめ……ごめんなさい……僕っ……」
引きつったような声でしゃくりあげながらぼろぼろと泣き出した進くんは、まるで小さな子供のようだ。
僕はあやすようにその背中を撫でながら、彼が落ち着くまでずっとそうしていた。