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友進

  • pwannex
  • 5月28日
  • 読了時間: 4分

 進さんと交際を始めて数ヶ月――そろそろ一歩進んでもいいのではとは思うのだが、誰かと交際をすること自体が初めてなのもあってなかなかその話を切り出せないでいた。

 独身寮や俺の家でそんなことはできないし、ホテルを利用して万が一マスコミに嗅ぎつけられたらと考えると、進さんが一人暮らしをしているマンションが誘う場所としては適切だろう。

 しかし、進さんの気持ちはどうなのだろうか。

 俺とそういうことをしたいと、進さんは思っているのだろうか? 俺が進さんを想って自分を慰める日があるように、進さんも俺を想って自分を慰めることがあるのだろうか。

「友沢? どうしたの、ぼーっとして」

 そんなことを考えながら歩いていると、隣にいた進さんが俺の顔を訝しげに見上げてきた。

 進さんは俺よりいくらか背が低いため、横に並ぶと自然と上目遣いで見つめられる。普段からいつもそうなのに、そんな何気ない仕種が可愛らしくてついドキリとしてしまった。

「あっ、いえ……すみません。少し考えごとをしていました」

「大丈夫? 疲れてるのかな?」

 俺の返答に進さんは小さく笑い、そっと俺の頬を両手で挟んできた。そしてそのまま顔を近づけてきて、唇が一瞬だけ触れて離れてゆく。

 それをあまりにも自然に行うものだから、俺はすぐには口付けされたことに気づかず、ぽかんと口を開けて進さんの顔を見つめてしまった。

「あ……す、進さん?」

「ふふ、びっくりした?」

 俺が何か言う前に進さんは悪戯っぽく笑って再び歩き出してしまった。

 不意打ちのキスに顔が熱くなるのを感じつつ、進さんと並んで歩いてゆく。

 お互い有名人なのもあり、安全のために普段は外で手を繋いだりはしない。だが、その日は進さんが俺の手を引く形でそっと指を絡ませてきた。

 驚いて進さんの方を向くと、進さんは「静かに」とでも言うように口元に人差し指を立てる。

「いまは周りに誰もいないから……ね?」

 悪戯っぽく笑う進さんがあまりにも可愛くて、心臓がバクバクして壊れてしまいそうだった。

「は……はい」

 上ずった声で返事をしながら、俺は指を絡めた手をぎゅっと握りしめる。俺は赤くなっているであろう自分の顔を隠したくて仕方ないのに、進さんはそんな俺を見てくすくすと笑うばかりだ。

「ねえ友沢。その、疲れてるならさ……休憩していく?」

「休憩?」

 ふいに足を止めた進さんが視線で指し示したのはいわゆるラブホテルと呼ばれる建物だった。先程から繁華街を避けて移動しているとは思っていたが、まさかここを目指していたからなのだろうか。

「休憩って……休憩ですか?」

「うん。してくなら……部屋、借りるけど……」

 進さんのほうからそんな提案をされるとは思わなくて俺はつい聞き返してしまった。

「ええと……いいんですか?」

「うん……」

 進さんは小さく頷いて俺の手を引いて建物の中に入ってゆく。

 もっと気の利いたことでも言えればとは思ったが、緊張や戸惑いのせいでそんな言葉などひとつも思いつかなかった。

 気づけば無人機で受付を済ませた進さんに連れられて、あれよあれよという間に部屋に入っていた。とりあえずベッドに腰をかけたものの、これからどうすればいいのかわからない。

 そんな俺の気持ちを察したのか、進さんが俺の隣に腰掛けてそっと手を握ってきた。

「あの……友沢は、その……どっちのほうがいい?」

「え?」

「えっと……だから、抱くほうか抱かれるほうか」

 進さんの問いかけに俺ははたと気付かされる。

 漠然と自分が進さんを抱くつもりでいたが、よく考えたらまず最初にそれを話し合うべきだった。衝動のままことに及ぶようなことがなくてよかった、と自分の自制心を褒めながら言葉を返す。

「俺は、どちらでも……」

 正直に言ってしまうと進さんを抱きたくて仕方がない。だが、それをそのまま口にするのはがっついているようでよくない気がした。

「そう……じゃあ、僕が友沢に抱かれたいって言ったら、どうする?」

 進さんの言葉にどきりと心臓が跳ね上がる。

 俺が、進さんを――想像の中では何度も進さんを抱いていたが、こうして本人が俺に身を委ねてくれるとなると、えも言われぬ興奮が全身を駆け巡るのを感じた。

「ほ、本当にいいんですね? 進さん」

「うん。その……初めてだから、いろいろ勝手がわからないけど……」

 言ってから恥ずかしくなったのか、進さんは顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。嬉しさと愛しさでどうにかなってしまいそうで、俺はたまらず進さんを抱きしめた。

「嬉しいです。進さん……」

 俺の背中に手を回した進さんは、俺の胸に顔を埋めて「うん……」と小さな返事と共に頷く。

 互いに初めての性行為はお世辞にも大成功とは言えなかったが、その日の熱を思い出すだけで兆す程度には、俺の記憶に深く刻まれる出来事となった。

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