友進 ※R-15
- pwannex
- 9月15日
- 読了時間: 7分
※酔った勢いでいたしてしまった友進
携帯電話のアラーム音で目を覚ました友沢は、ほとんど無意識に枕元へと手を伸ばしたあとそれがいつもの位置にないことに気がついた。
どこに置いたのだったか。それを確認するために身を起こして周囲を見回したのちに、やっとここが自分の部屋ではないという事実に思い至った。
確か、昨晩は進のマンションに招かれて食事をしたのだ。そのあと、友沢が酒を飲める年齢になったから少しだけ飲んでみようという話になって、それから、それから――どうしたのだったか。
寝起きだから頭が働かないのだろう。そう考えつつベッドから出ようとしたとき、友沢は自分が衣服を身にまとっていないことに気がついて瞠目した。
自分の家であれば下着だけの姿で寝てしまうこともしばしばあるが、他人の家でそんな格好になったことはさすがにない。全裸なんてなおのことだ。
戸惑いつつ視線を動かすと、すぐ隣に寝息を立てている進の姿があった。
「っ……!?」
友沢は驚きのあまり声が出そうになったのを堪える。
進も友沢と同じように衣服を着ていなかった。しかも二人でひとつのベッドに就寝したらしく、体温が感じられるほど近くに互いの身体がある。
友沢はいよいよ頭を抱えたくなってきた。
なぜ自分が全裸で寝ていたのか。そして、なぜ進まで服を脱いでいるのか。そうなった経緯がまったく記憶にない。
頭の中に疑問符がいくつも浮かぶが、可能性として思い浮かぶのはよく聞く「酔った勢いで一線を越えてしまった」というものだった。
友沢は進のことが好きだ。進の体に触れたい。自分のものにしたい。そう思うことは何度もあった。だが、酔った勢いでなどとは望んでいなかったはずだ。
しかし、現実として自分たちは全裸でひとつのベッドに寝ているのである。
「う……ん……」
友沢がそんなことを考えていると、進が小さく身じろぎしてゆっくりと目を開いた。
寝惚け眼の進は普段よりいっそう幼く見えて非常に可愛らしい。だが、いまは悠長に可愛いなどと思っている場合ではなかった。
「あ……おはようございます」
友沢は恐る恐る声をかける。
進はぼんやりとした目で友沢の顔を見上げ、「えっ!?」と声を上げたあと慌てた様子で体を起こす。どうやら、友沢と同様に自分たちが裸であることに驚いたようだ。
「なっ……え……!?」
進は周囲をきょろきょろと見回してからもう一度友沢を見る。それから何かを思い出したのか、顔を赤らめて「そうだった……」とつぶやいたあと、気まずそうに俯いてしまった。
友沢は自分の顔を手で覆った。進の首筋から胸元にかけて赤い斑点がいくつも散らばっていたからだ。状況からして、これはもしかしなくても自分がつけたものなのだろう。
「進さん」
「へっ!? な、なに?」
友沢が声をかけると、進はピンと背筋を伸ばして裏返った声で返事をした。
「あの……俺たちって、その……もしかして……」
何をどう尋ねるべきか迷った挙句に口から出たのはそんな言葉だった。しかし、その言葉だけで進には充分伝わったらしい。
「え、えっと……」
顔を赤くしたままの進が目を泳がせる。そして、しばらく黙り込んだあと意を決したように口を開いた。
「……覚えてないかな?」
「はい……まったく覚えてません」
友沢が正直に答えると、進は「そっか」とつぶやいて話を続ける。
「きみ、お酒を飲んだことなかったから、自分がどのくらいまで飲めるのかわかってなかったでしょ?」
「はい……そうだと思います……」
「それでね、お酒を飲んでるうちにどんどん酔っぱらってきて……」
進の説明を聞いているうちに友沢はだんだんと思い出してきた。
進と一緒に酒を飲み始めた友沢は、最初の一杯を飲み干した時点ですでに体が熱くなっていたのだ。二杯目を飲んだあたりから頭がふわふわとしてきて、三杯目を飲み干したときには完全に酔いが回っていた。
進はそんな友沢を心配して水を飲ませてくれたのだが、あろうことか友沢は進に抱きついて「好きです」と告白したのだ。そこまでをはっきりと思い出し、友沢は顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
「それで……その……僕もちょっと酔っぱらってたから、そのまま……」
そこまで言って進は再び顔を赤くして俯く。
「……すみませんでした!」
いたたまれなくなった友沢は進に頭を下げた。
酔った勢いで行為に及んでしまうなんて――あまりにも情けなくて泣きそうな気持ちになる。
そんな友沢を見た進はなぜか悲しそうに眉根を寄せた。
「どうして謝るの? 僕としたこと、後悔してる?」
「え……それは、その……」
「僕はすごく嬉しかったよ。僕はずっと友沢のことが好きだったから……昨日きみに好きだって言われて嬉しかったし、友沢になら何をされてもいいと思ったんだよ。……でも、きみは違ったんだね」
「ち、違います!」
進は悲しげな顔のまま俯く。その目が潤んでいるのを見て、友沢は自分の軽率な行動を心底悔いた。
「酔った勢いでしてしまったのが申し訳なくて……本当はもっときちんとした形であなたに告白するつもりでした」
友沢は進の顔を覗き込みながら自分の気持ちを話す。
「俺はあなたが好きです。ずっと前から好きでした。だから、もしよければ改めて俺とお付き合いしていただけませんか?」
果たしていまの状況が「きちんとした形」なのかは不明だが、いまはこれが精一杯の告白だった。
進は小さく「うん」と頷いてから顔を上げると、照れた様子で微笑んでみせる。
「それじゃあ……これからもよろしくね」
「はい」
進の言葉に友沢は胸を撫で下ろした。
まさかこんな形で告白をすることになるとは思わなかったが――結果的にはよかったのだろうと思いたい。
お互い裸のままでは気まずくて、友沢と進はひとまず服を着てからリビングへと移動した。
「そういえば俺たちって……その、どっちがどっちだったんですか?」
友沢はソファに座ってからそう訊ねる。予想だにしない質問だったのか、隣に座った進は手にしていたカップを取りこぼしそうになった。
「……そんなの言わなくてもわかるでしょ!」
「えっ……そうなんですか?」
友沢がきょとんとした様子でそう返すと、進は「そうだよ!」と答えてぷいっと顔を背ける。
それから進はソファから立ち上がってキッチンへと向かったのだが――その際に腰を庇うように歩いているのを見て、原因を察した友沢は「あっ……」と声を上げた。
「その、たぶん俺が……すみません」
友沢は申し訳なさと同時に恥ずかしさも込み上げてきて、何度目かの謝罪の言葉を口にする。
「もう、謝らなくていいってば」
進は拗ねたような口調で言いながら食器を運んでいた手を止め、ふうっと息を吐いたあと友沢のほうを振り返った。
「そっか、昨日あんなに情熱的だったのに忘れちゃったんだね。すごかったんだよ」
「すごかった……?」
「友沢があんなに激しいなんて思わなかったな。僕、もうこれ以上は無理って何度も言ったのに止めてくれなくて………」
「ほ、本当ですか!? 俺、進さんにそんなことを!?」
友沢は思わずソファから立ち上がって進に詰め寄る。
友沢の反応が予想外に大きかったのか、進は一瞬だけ目を丸くしたあと「ごめんね、いまのは冗談だよ」と笑みを浮かべた。
「でも本当に嬉しかったんだ。きみが僕を好きだって言ってくれたこと……すごく嬉しいよ」
「進さん……」
友沢は胸がいっぱいになって何も言えなくなる。そんな様子を見た進は「ふふっ」と笑みをこぼし、友沢の耳元に顔を寄せて囁いた。
「だから……今度は酔ってないときに、ね」
「……っ!?」
突然のことに動揺する友沢を見て、進は更に笑みを深めながらリビングを出て浴室へと向かった。
一人残された友沢はしばらく呆然としていたが、進の言葉を頭の中で反芻してから我に返る。それから邪念を振り払うように頭を掻きむしったあと、大きくため息をついてソファに倒れ込んだ。
結局――酒を飲んだ自分がどれほどの醜態を晒したのかはわからないが、それでも進と想いが通じたことに変わりはない。
友沢はテーブルの上に並べられたトーストとサラダを見てふと笑みを浮かべた。友沢の質問に不機嫌になりつつも、律儀に朝食を用意してくれた進の気遣いには頭が上がらない。
今度は酔っていないときにきちんとやり直そう。友沢はそう心に決めて、まだ温かいトーストを頬張った。