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友→進

  • pwannex
  • 5月26日
  • 読了時間: 5分

更新日:6月18日

 中学にあがりたての頃、たまたま遠征に来ていたあかつき大附属高校の生徒と公園で野球の練習をしたことがあった。一人で素振りをしていたときに「いいフォームだね」と声をかけられ、そのまましばらく練習に付き合ってもらったのだ。

 やはり高校生の野球は中学生とはレベルが違う。ほんの数十分の練習でそれをまざまざと感じさせられたのを覚えている。しかも、相手は甲子園の常連であるあかつき大附属高校の野球部なのだから、筋がいいのは当たり前だった。

 俺が投手であることを話すと、その高校生――猪狩進と名乗っていた――は、自分は捕手だから投球練習に付き合うと提案してくれた。

 ミットを構える進さんに向かって、俺は遠慮なく全力でボールを投げ込んだ。投球を受けたミットの音が俺の耳に鋭く響き、それは胸のすくような快音だった。

 肩が暖まってきた俺は変化球も交えた投球練習を始めた。進さんは俺の投げる球を面白いようにキャッチしてくれる。俺は生意気にも進さんがどこまでならキャッチしてくれるのか試したくなって、自分のできる範囲の際どい投球を繰り返した。

 もっとこの人に教わりたい、この人に捕ってもらいたい。俺は強くそう願ったが、中学一年生の俺と高校一年生の進さんでは、仮に同じ学校に進もうとも在籍期間が重なることはなかった。

 聞けば、進さんはプロ野球選手を目指しているという。

 進さんであればきっとプロになれるだろう。それが俺の贔屓目でなかったことは、数年後のドラフト会議によって裏付けられた。だから俺は進さんにこう提案したのだ。

「俺、高校を卒業したらプロ野球選手になります。だから、もし同じ球団に入れたら俺とバッテリーを組んでください」

 いま考えれば、初対面の中学生にこんなことを言われても困るだろう。だが、進さんは俺の申し出に笑顔で応じてくれた。

「そっか。楽しみにしてるね。僕もプロになれるようがんばるよ」

 進さんは大きな目を細めてにっこりと微笑むと、俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。子供あつかいされるのが不本意ではあったが、高校生から見れば中学一年生なんてそんなものなのだろう。

 早く大人になりたい、進さんと肩を並べたい。その一念で俺は更に練習に打ち込むようになった。


 翌年の夏は、甲子園の特集番組であかつき大附属高校が取り上げられていた。注目選手としてキャプテン兼エースの猪狩守がまず取り上げられ、次いでその相棒として二年生レギュラーの進さんが紹介されていたのだ。

 翌々年は、進さんがあかつき大附属高校のキャプテンとして紹介されていた。俺はなぜか誇らしい気分になり、試合中継を眺めては進さんに向かって心の中で声援を送っていた。

 その年は――その年もと言うべきか――あかつき大附属高校は甲子園への切符を手に入れ、見事優勝を果たした。

 それは俺にとっても喜ぶべきことのはずだった。それなのに俺の記憶に残っているのは、進さんに対して『さすがは猪狩守選手の弟ですね』とインタビューをするアナウンサーの姿だった。

 俺はその光景になぜかひどく苛立ちを感じてたのを覚えている。進さんは苦笑いを浮かべて会釈していたが、俺はその映像を見るのが嫌でチャンネルを変えたのだ。

 その年のドラフト会議で進さんはオリックスに一位指名されていた。進さんは兄と同じ巨人に入ると予想されていたが、進さん本人がオリックスへの入団を希望したらしい。

 そのために野球ファンの間では「猪狩兄弟は不仲なのではないか」などの憶測が飛び交っていたが、それは俺にとっては重要なことではなかった。

 翌年になると進さんは一軍レギュラーに定着したらしく、オリックスの試合中継ではほぼ毎回進さんの姿を見ることができた。

 進さんのがんばっている姿を見ると、自分もがんばらなければという気分になってきて、俺はますます練習に打ち込むようになった。

 そんなものだから、学校の友人たちには「友沢はオリックスのファンなんだな」と認識されていたらしい。進さんのカイザース移籍に伴って俺の追いかける球団が変わったときには不思議な顔をされたものだ。

 高校三年生の秋、俺はドラフト会議でカイザースからの指名を受けた。

 進さんが所属している猪狩カイザースへの入団――六年前の約束をやっと果たせるのだと思った。

 俺はもう投手ではないから、進さんとバッテリーは組めない。だけど、同じチームで野球をすることはできる。

「友沢亮です。よろしくお願いします」

 六年ぶりに再会した進さんは、当然ではあるがずいぶんと大人っぽくなっていた。プロの中で揉まれてきたからか、以前よりも精悍な顔つきになったように感じる。

「こちらこそよろしく。わからないことがあったら訊いてくれていいからね」

 いつの間にか俺より背が低くなった――というより俺の背が伸びたんだが――進さんが、六年前と変わらない人懐っこい笑顔で笑う。自分の記憶の中ではずっと「お兄さん」だった進さんを見下ろすのは不思議な気分だった。

「はい。早く一軍に上がれるようがんばります。……約束しましたからね」

「……約束?」

 進さんが俺の言葉を訝しげに聞き返す。

 やはり進さんは俺のことなど覚えていないらしい。仕方がないことではあるが、少し寂しいのも確かだった。

 ここで「あのときの中学生です、覚えていますか」と確認することもできたが、俺は「いえ、なんでもありません」と返して会話を終わらせた。

 進さんが過去の俺を覚えていてくれなくても構わないのだ。これからチームメイトとして共に戦う中で、俺という人間を認めてもらえればそれでいい。

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